archive : 2014 年 01 月

気になる男

歴史上の男たちで、気になる男3人を選べと言われたら、即座にユリウス・カエサル、織田信長、そしてこのフリードリッヒ2世と答えるだろう。

このお正月に読んだ本が、塩野七生の『皇帝フリードリッヒ2世の生涯」上下巻だ。

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フリードリヒ2世については、なかなか良い本に出会えなかった。2011年にエルンスト・カントロービッチの『皇帝フリードリヒ2世」の日本語翻訳版が、中央公論新社からようやく発売されたので読んだのだが、オリジナルが1931年に出版されたものだったし、資料としても、20世紀初頭の男が書いた視点としても、ワシには物足りなかった。キリスト教徒的な発想があったのも気になったし。歴史の大家にたいして偉そうな物言いだが。

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カントロービッチの本には、フリードリッヒが何をしたかということは事細かに描かれていたが、フリードリヒがどのような環境であの不屈の精神を得る事が出来たか、何を考えていたのか、という一番知りたかったことが見えて来なかったので、残念な思いを持っていた。それで、塩野七生版には大いに期待した。なにしろ『ローマ人の物語』シリーズでユリウス・カエサルにあれほど肉薄した作家だからだ。
塩野七生の次回作はきっとレオナルド・ダ・ヴィンチだろうと勝手に想像していたので、フリードリッヒ2世の本が出ると知った時は驚きとともに期待に胸が膨らんだ。そして、期待以上の内容だった。

簡単にフリードリヒ2世のことを説明するのは難しい。中世の時代に画期的な事績を積み上げた男なのだが、彼の業績はもっともっと世に知らしめるべきであると思っていたので、日本語で大著が出たのは実に嬉しい。
 敢えて簡単に事績を述べる。十字軍真っ最中の時代に、神聖ローマ皇帝、シチリア王国の王として地中海世界に君臨していた彼の代表的な業績は、一滴の血も流すことなく(キリスト教徒、イスラム教徒を含む)10年間の協定とはいえ、エルサレムをキリスト教徒の手に回復したことだ。
21世紀の今ならそれを聞いただけで、パレスチナの和平モデルになるではないか!と最大の評価をするであろう。ところが、その時代、彼はそのように評価はされなかったのだ。時のローマ法王グレゴリウス9世からインノケンティウス4世にいたるまでに計3回も破門を受けている。しかも、エルサレム和平協定の直後には『キリストの敵」とまで断罪されたのだ。それからのローマ法王庁との戦いは熾烈を極めるのだが、フリードリヒは法王の存在自体まで否定しようとしたのではなかった。あくまでも、宗教世界は法王が、俗界のことは皇帝に任せろ(神のものは神に。カエサルのものはカエサルに)というイエスの言葉もあるではないか、と言うのがスタンスであった。
世界初の国立大学であるナポリ大学を作ったのも彼だ。奨学金制度まで用意してあった。

そのような自由精神を持つに至ったのはなぜだったのか、ということが描かれている良い本であった。ルネッサンス時代を先取りすること200年、ルネッサンス的精神を初めて持った君主の登場である。


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